博士の日記

医薬系民間企業の研究員を経て、外資系企業でマーケティング職をやっているバイオ系博士が日々を語ります。

アカデミアからの民間企業への就職・転職を考えるときに考えること(2)~自由度の違い、職種(開発とか)の理解

アカデミアでは、まずやってみるというのがよく許される気がしています。

自由闊達であってこそのアカデミア、その気風が大事なのでしょう。

私も学生のときは、何でも思いついたことはすぐに実験していました。

タンパク質の変異体作ったり、新しい宿主の発現系試したり、タンパク質精製用のカラム買ったり・・・。

今思えば、とても恵まれた学生時代を過ごしたように思います。何より、潤沢な予算があったんですよね。エタノールさえ買えないとか、ピペットチップを再利用するだとか、お金のないラボのうわさを聞いたことがありますが、それに比べると何でも自由に購入してもらうことができました(主に消耗品ですが)。

企業に入ると、ファイナンスの重要性を学びます。ファイナンスとは、資金調達のことです。アカデミアでもPIになると自分で予算を獲得してラボ運営をしなきゃいけないと思うので、基本的考え方は同じかもしれません。ただ、アカデミアの場合は予算の調達もとが主に外部資金(科研費等)である一方、企業の場合(ベンチャー企業の場合を除く)は企業上層部ということになります。

「企業上層部」と少し曖昧な表現をしました。企業には経理という部署が存在します。ここではお金の動きを管理していますが、お金を出す・出さないという判断は下しません。その判断を下す人が会社の財布の紐を握っている人です。だれがどの程度の金額の支出まで許可(決裁)できるか、ということが多くの場合決まっています。(例えばですが、部長500万、課長100万、主任50万とか。ウチの会社の例ではないですよ)あと、一定金額以上の場合には「稟議」っていうのが必要だったりします。

 

企業では、研究開始前に最低でも以下のことに関する事前リサーチと、リサーチ結果を踏まえた計画の立案、そして計画に対する承認が必要です。

・対象市場の規模

・競合相手の動向(具体的なプレイヤー、各プレイヤーのシェアなど)

・競合相手の特許(特に重要。うかつに手を出すと訴訟を起こされます)

・必要な投資(物的人的な費用・要する期間)

・事業撤退の基準

 

今パッと思いつく限り書いてみましたが、これだけではないかもしれません。

いずれにしても、新しいことを企業で始めるのはとても大変なのです。

企業の研究者って面倒そうだなって思ってきましたか?でも、メリットもいっぱいありますよ(いたずらに企業研究者をおすすめしたいわけではありませんが)。

 

ただ、予算をあまり使わない簡単なお試し実験であれば、上記の面倒な手続き等なく始めることも可能な場合が多いです。このあたりは完全に企業によってことなるとは思いますが、「研究開発部門」(研究と開発は全く違います。念のため)となっているところではなく、「基礎研究部門」的なネーミングで開発と完全に分けられている場合だと、いわゆるアングラ(アンダーグラウンド)研究が容認されていることが多く、結果としてお試し実験は自由に行えるように思います。ちなみに私の現在の所属は後者(基礎研究)ですが、同じ敷地内の別の建物には研究開発部隊もおり、知り合いもいますので、ある程度上記のような実状の違いを身をもって体感できています。

一応説明しておきます。今話に出てきた「開発」という仕事ですが、基礎研究の成果を製品化する工程だと思って下さい。例えば試薬メーカーだったとして、製品化に際しては最適な保存条件(温度、pH、バッファーの種類、保存の添加物等)や許容できる反応条件、プロトコール、保存期間などを逐一実験してデータをとり、明確化してユーザーに提供しなければなりません。そうした工程を明らかにし、「製造」へ受け渡す仕事が「開発」です。

 

ですので、アカデミアにいるときと少しでも近い感じで仕事がしたければ、「基礎研究部門」的なネーミングの部署に入って下さい。

採用の際、「研究開発職」という形で一括りにされている場合が多いです。これには注意して下さい。特に規模の小さい会社(ベンチャーではなく)だと、研究開発とはいっても実際は開発メインだったりすることも多いようです。

(続く)