博士の日記

医薬系民間企業の研究員を経て、外資系企業でマーケティング職をやっているバイオ系博士が日々を語ります。

アカデミアからの民間企業への就職・転職を考えるときに考えること(3)~企業における開発とは?博士号って本当に足の裏の米粒か?

前々回からの続きになります。

 

前回の最後の方で、規模の小さい会社(ベンチャーではなく)だと研究開発とはいっても実際は開発メインかもしれないという話をしました。

これはアカデミアの現場からするとイメージがつきにくいかもしれません。ですが、企業での職探しの際に重要になってきますので説明しておきます。

 

メーカーというと、どんな分野であれ多かれ少なかれ自社で研究・開発を行い、そうして得られた成果を製品化していると想像されるかもしれません。ですが、中小企業だと同業の大企業が販売している製品の組成を参考にしてそれの微修正版を出すような形の製品作りをしていることが多いです。医療用医薬品でいうと、ジェネリックを作っているような感じです。ジェネリック医薬品は特許切れの医薬品の有効成分をそのまま利用しつつ、味(苦味低減とか)や薬の提供状態(粉末か錠剤かとか)などに改変を加えたものですね。

 

こういった企業の場合、必然的に研究開発部門の業務は「開発」がメインとなってきます。念のためいっておきますが、開発が悪い、楽しくないと言いたいわけではありません。しかし、基礎研究の現場からはどんどん遠のきます。そのため、企業で「研究者」を志すのであれば、大企業であって、その中でも「基礎研究部門」に入ることを推奨しているのです。

もちろん開発も大事な仕事ですよ。中途採用募集時の需要・採用枠はとても多いですし、「基礎系研究者」よりよほど潰しが効く業種といえるでしょう。職種(=開発)を維持したまま、業界チェンジが可能な例といえるでしょう。潰しが効くということは厳しい就職戦線を勝ち抜いていく上で極めて重要なクライテリアです。

 

上場企業であれば買収の危険性と常に隣りあわせです。ある企業が同業のより大きな企業に買収されたとします。すると買収を受けた企業では、人員整理が行われます(リストラですね)。ひとりひとり履歴書を確認されながら、こいつはいる、こいつはいらない、等と買収元の会社のえらい人が判断していくようです。そうしたとき、多くの場合基礎系研究者が(よほどスター級の研究者でもない限り)真っ先に切られます。既に自社内でも多くの研究者を保有しているからです。一方で、独自ノウハウを有した開発部隊はそのまま買収元に吸収されることが多いようです(ウチの会社にもそういう人が多いので)。

潰しが効いてよかったという例です。

 

開発はとても実験が上手な人が多い印象です。というか、実験そのもの(手を動かすこと)が好きなら開発が断然おすすめなのではないかと思います。また、これは私が所属する会社の場合だけなのかもしれませんが、「開発にいた」というだけで皆から一目置かれる感じがします。私もいずれは開発の仕事もしてみたいと思っていますよ。

逆に、アカデミア上がりのような人はちょっと腫物扱いされたりもしています(皆が皆ではないです。そういう傾向にあるように感じるだけです)。一方で、博士号取得者はちゃんと一目置いてくれる感じです(ポスドク等を経ず、学位取得後直接企業就職したような人)。博士という学位の価値は、少なくとも私がいる業界(医薬系メーカー)ではきちんと評価されています。よく言われる、足の裏の米粒ではありません。ですので、現在博士課程の学生のみなさんはその点安心して、自信をもって就職活動にあたって頂ければと思います。

博士号取得者の活躍の場は、その先人たる博士たちが提供していかなければいけないと思っています。私も微力ながら、そうした役回りの現在の所属先企業で果たしていきたいと思っています。

 

博士取得者でよく言われることで、専門性が高すぎて柔軟性が低いのではないか、という指摘がありますよね。なので、人事異動などで流動性の高い企業という職場にはそういった人材は適さないと。その指摘は、博士取得者というより、ポスドク助教等を経て来た人にはある程度当てはまると思います。

やはり企業では柔軟性は大事ですよ。ポスドク助教の人だって思考回路に柔軟性はもちろんありますよね。柔軟な思考ができなければ実験結果の解釈なんてできませんから。ただ企業の求める柔軟性って、そこのことでは無いんですよね。必要なのは、どんな職場に、どんな業務に配置されても適応できる柔軟性です。もしも現在ポスドク助教の方で民間企業へ転職をチャレンジしている方がいたら、そういった自己アピールの仕方が大事であるという視点も忘れないで下さい。

 

今日はこの辺にしておきます。

では。