博士の日記

医薬系民間企業の研究員を経て、外資系企業でマーケティング職をやっているバイオ系博士が日々を語ります。

アカデミアからの民間企業への就職・転職を考えるときに考えること(5)~研究費と自由と論文と

前回は企業研究者という内容からはかなり話が脱線して、上場企業に関して紹介する記事となってしまいました。

今回は気を取り直して、研究者が気になりそうなポイントである「予算」や研究上の「自由度」ということに関してお話ししてみたいと思います。

 

まずは研究費についてお話します。

平成25年度と少し古い情報ですが、民間企業の業種別の「研究者一人当たり研究費」が以下のサイト(JSTのホームページです)で紹介されています。

https://sangakukan.jst.go.jp/top/databook_contents/2014/2_statistical_data/3_science_technology/pages/2014_hitoriatarikenkyuuhi/2014_hitoriatarikenkyuuhi.html

 

上記より「医薬品製造業」というカテゴリでみてみると、研究者一人当たりの予算年額は6,345万円であることがわかります。私の所属先も「医薬品製造業」に含まれると思います。この辺実際(私の場合)どうなっているのか、ざくっとですが紹介します。

 

うちの会社で、しかも私個人の場合ですが、2018年4月から2019年2月いっぱいまでで700万円ほど使いました。もともと1500万年ほどは予算を獲得していたのですが、研究が思うように進捗しなかったので当初の支出予定の半分ほどの使用に収まったという形です。実際、同じ会社の中でももっとベテランの研究者はもっといっぱい予算ももらって、実際にいっぱい使っていますよ。

 

あと、うちの会社の基礎研究部門に割り当てられている予算全額を所属研究者数で割った値だけ教えます。

およそ「5000万円」くらいです。多く感じます?それとも少ないと思う?

私は学生のときの先生の予算や、前職でお世話になったアカデミアの先生の予算も知っていますが、それと比べると大変多く感じています。

 

ていうか、前出の「6345万円」ってすごいですね。上位企業が圧倒的に巨額の研究費をもっていて、そちらの数値に平均値がひっぱられているのでしょうか?

世間の平均年収も、よく上位の所得者の金額に引っ張られるといいますもんね。

年収といいますと、研究に使える予算も大事ですが、実際に個々人の懐を潤してくれるお給料も大事ですよね。これもいずれ紹介しようと考えています。

 

以上が数値の面での実状になります。

でも、企業ってアカデミアと比べてお金の獲得が本当に簡単な感じがします。年額1500万円って、基盤Bくらいですか?

自分で研究費申請したことないのであまり予算の分類に詳しくなのですが、よく若手がもらう金額ってスタートアップみたいなやつで100~200万くらいだったりするイメージなのです。合ってます?

少なくとも1500万円なんて予算、私がアカデミアにいたとしたら、絶対に獲得できそうもない金額です(あまり論文業績もないので)。

以上のように、(そこそこの)大企業の基礎研究者になると、このような規模の予算を比較的簡単に獲得することができます。平均値を見ると上には上がいるそうですが、上ばかり見ても仕方ないので。

 

では、予算の獲得はどのようにして行うのか?

それを次に紹介します。

アカデミアでの予算申請書の作成と類似した部分は多々あると思いますが、以下のような項目を漏れなく含めた形の研究計画書の作成が企業では必要になってきます。

 

・対象市場の規模

・競合相手の動向(具体的なプレイヤー、各プレイヤーのシェアなど)

・競合相手の特許(特に重要。うかつに手を出すと訴訟を起こされます)

・必要な投資(物的人的な費用・要する期間)

・事業撤退の基準

 

市場や特許が絡んでくるあたりが、企業らしいと感じるのではないでしょうか。

上記について述べた綿密な研究計画書の作成と、決裁権限者の前でのプレゼンテーション等が必要です。

ですが、科研費などのように倍率が高いわけではありません。会社としても研究員にはしっかり研究して成果を出して欲しいわけで、出費を無駄に渋ったりはしません。さんざん駄目だしをされながらも、何とか予算は通してくれるというケースが大半かと思います。

 

ただ、やはり会社の方向性に反する提案は基本的に認められません。どのようにすると事業化にこぎつけられるのか、ということが深く問われますので、既存事業とかけ離れた提案だと受け入れられることは難しくなります。やはりそこはアカデミアと異なり、単に論文を出して終わり、というわけにはいかないので。

企業はやはり、利益を出してなんぼの世界です。科学的真理探究の場ではないです。

ただ、企業研究者といえど科学者のはしくれですので、真理は探究しなくても真理には背かないという矜持はあります。念のため。

 

それなりの規模のある企業であれば、論文も出せますよ。ある成果が事業化に結び付いたとして、その過程で得られた成果を論文化したりすることは企業でもよくあるケースかと思います。それをもって、共同研究(より大きな企業とだったり、エッジのきいた技術を有するアカデミアだったり)を呼び込んだりします。

ただそれでも特許化が先行しますけどね。論文等で先に公表してしまうと、特許というのは基本的には取得できなくなってしまいますので。

 

今日はこの辺で。

では。