博士の日記

医薬系民間企業の研究員を経て、外資系企業でマーケティング職をやっているバイオ系博士が日々を語ります。

企業研究者の成果発信方法~特許か論文か(3)

前回までの2回で、特許に関して紹介してきた。

特許の紹介はこのへんまでにしておいて、今日はノウハウとして秘匿するケースについて話してみたい。

 

 ◆前回記事はコチラ↓

https://micromegane.hatenablog.com/entry/2019/03/26/083349

 

ノウハウとして秘匿するケース、実際にはよくあるようだよ。

特許化にはそもそも適さない技術ってのがある。

製造方法の特許だ。

これこれこういう物質を、こういう比率で混ぜて、こんな温度で一定時間反応させると化合物Aを作ることができるっていう感じの特許のことだ。この特許を押さえると、特許で指定した方法では化合物Aを作ることができなくなる。

 

で、もう一つ特許のパターンとして、物の特許っていうのがある。

さっきの化合物Aは、油汚れを驚異的に除去できる新規な界面活性剤だとしよう。

その界面活性剤Aそのものに特許権をつけることもできる。この権利が認められると、誰も発明者の許諾なしにAを扱うことができなくなる。こっそり作ることはできるかもしれないけど、商用利用は一切できない。

 

製造方法の特許では、Aという物質そのものの権利は主張し出来ず、ある一定の作法のみが保護の対象となるだけだ。新しい作り方が開発されると陳腐化するし、そもそもこっそり作られて売られても、どうやって作ってるか開示されない限り訴えることも難しい。

こういうことから、製造方法の特許は弱い権利と呼ばれる。

一方で、物の特許は強いと。

 

で、前振りが長くなったけど、新規開発した技術が製造方法みたいな場合には、特許として公開したりするよりもノウハウ秘匿の方が好ましいケースが多い。

その場合、社内に一定の書式があったりして、詳細に技術内容記入して、関係者間で守秘義務とかしっかり確認して眠らせたりするみたい。

こうやって、ある技術を公開することなく社内に蓄えることが、ノウハウの秘匿ってこと。

コカコーラの製法って、秘匿されてるって有名な話があるでしょ。それがノウハウだよね。

公開しちゃうとなんだ簡単じゃんって皆真似できちゃうけど、公開しない限り誰も到達できないようなコツがある場合に有効な手段だ。

きっとコカコーラだって、よく似たものは作れるけど、類似品を超えてコカコーラに達するために必要な超特殊な一手間があって、それが誰も思いつかないだろうという自信があるから特許化されていないんだと思う。成分分析じゃわかんない何かがあるんだろうね。

 

で、反対に車とかは、必ず特許化される。一台の車に数十から数百の特許がとられてがちがちに権利化しているらしい。分解したらわかっちゃうからだろうね。

まあ車はそもそも10年も商品寿命ないだろうし、特許化ってのがふさわしいんだろうな。コカコーラなんて、人類が続く限り商用寿命は無限でしょ?きっと。

だったらたかが20年程度で切れちゃう特許権なんて、出すだけ無駄だよね。

 

で、ノウハウってのはこのへんにしておくけど、単に公開するのがどんな場合が考えられるか考えてみよう。

 

ある技術を特許化する以外の手段で公開することのメリットは、他社がその技術で特許を取得することを防ぐことができるからだ。

そうすると、自社で特許として保護しておく必要性まではないけど、この技術を他社の特許として押さえられると事業を行う上でちょっと厄介だ、みたいなときの対策になる。

その公開に手段は、社内報のようにアクセス権者が限定されていなければ何でも良いって話は前にした。

 

以上、3回に渡って企業研究者の成果発信方法を見てきたけど、なんとなく伝わっただろうか。

まず若手研究者は特許を出すスキルを学ぶことが大事だと思う。特許に関して理解が進むと、特許ってのは本当に何でも取れるんだなってことがわかってくる。

まずはその域に達することが第一段階かな。そしたら発明提案をどんどん出したら良い。その中から、事業戦略的に意味がありそうな技術があるってなったら特許を出させてもらえると思う。その過程で、明細書の書き方を学んでいくと良いのかなと思ってる次第だよ。

 

今日はこの辺でな!